決算対策の相談は、たいてい遅すぎるタイミングで来る。「今期は利益が出そうなので、何かできませんか」——決算日の2週間前。
まず結論から。
決算対策は「何をやるか」より「いつまでにやるか」で決まる。決算日を過ぎてから増やせる経費は、ほとんど残っていない。
そしてもう1つ。2026年4月から、買った年に全額経費にできる金額のラインが30万円未満から40万円未満に上がった。 去年と同じ感覚で判断すると、使える枠を取りこぼす。
この記事は、決算日から逆算して「今日はまだ何が間に合うか」を判断できるように、国税庁の情報にもとづいて整理した。
情報の時点
本記事は2026年8月時点の情報です。金額・期限は国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」および各タックスアンサー・法人税基本通達で確認しています。適用できるかどうかは会社の状況で変わるので、実行前に必ず顧問税理士にご確認ください。
決算対策には「4つの締切」がある
節税策は、間に合う期限で4つに分かれる。自社の決算日が近いほど、使える手は減っていく。
| 締切 | 代表的な手 | 決算日直前でも間に合うか |
|---|---|---|
| 決算日の3か月前まで | 設備投資、共済への加入、役員報酬の見直し | ✕ もう遅い |
| 決算日まで | 40万円未満の資産を買って使い始める、1年分の前払い、交際費 | △ 内容による |
| 決算日まで(意思決定のみ) | 決算賞与の「通知」 | ○ 間に合う |
| 決算日の後 | 決算賞与の支払い、一部の届出書 | ○ 間に合う |
多くの社長が誤解しているのは1行目だ。設備投資や共済加入は「決めてから実行されるまで」に時間がかかるので、決算日の直前に思いついても物理的に間に合わない。
決算日までに間に合うこと
① 40万円未満の資産は、買った年に全額経費にできる
2026年4月1日以後に買ったものから、対象が「30万円未満」ではなく「40万円未満」に広がった。1年で合計300万円まで。
中小企業には、本来なら何年かに分けて経費にする資産でも、買った年に全額経費にできる特例がある。2026年(令和8年)4月1日以後に取得したものから、次のように変わった。
| 項目 | 2026年3月31日まで | 2026年4月1日以後 |
|---|---|---|
| 1つあたりの金額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 1年間の合計 | 300万円まで | 300万円まで(変更なし) |
| 対象になる会社 | 従業員500人以下 | 従業員400人以下 |
| いつまで使えるか | — | 2029年3月31日まで(3年延長) |
出典:国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」、「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
パソコン、業務用の机、ソフトウェア、中古品も対象になる。青色申告であることと、申告書に明細を付けることが条件だ。
「買った」だけでは経費にならない
この特例は「取得して事業の用に供した場合」に使える。決算日までに注文して支払いを済ませても、決算日時点で箱から出していない・設置していないなら、その期の経費にはならない。決算間際の駆け込みで一番多い失敗がこれ。
なお、金額のラインが40万円に上がったのはこの特例だけではない。中小企業経営強化税制の工具・器具備品も「30万円以上」から「40万円以上」に、中小企業投資促進税制の工具も同様に引き上げられた。減価償却そのものの考え方は「減価償却を活用した節税」にまとめている。
② 1年分をまとめて前払いする
支払った日から1年以内に受けるサービスの前払いなら、払った年の経費にしてよい。ただし毎年続けることが条件。
家賃、保守料、リース料、サブスクなど、継続的にサービスを受けるものが対象になる。決算月に翌年分の家賃を12か月分まとめて払えば、その期の経費が一気に増える。
使うときの条件は3つ。
- 1年以内に受けるサービスであること(13か月分はダメ)
- 実際に支払っていること(未払いのままはダメ)
- 毎期続けること(今年だけ、は認められない)
出典:法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)
1回きりの節税にはならない
翌期は「翌々期分の前払い」をしないと、経費が前年より減ってしまう。初年度だけ効いて、2年目以降は効果が消える。しかも一度始めたら続けるのが条件なので、資金繰りに余裕がないと苦しくなる。「今期だけ利益が出た」という理由で始めるのは危険。
借入金の利息のように、収益と対応させる必要があるものはこの扱いを使えない。
③ 決算賞与は「決算日までに通知」すれば間に合う
支払いは決算日の後でもいい。ただし決算日までに全員へ金額を伝えていることが絶対条件。
決算日までに支払いが終わっていなくても、次の3つをすべて満たせば、その期の経費にできる。
- 各人別に金額を通知する。同時期に賞与を受けるすべての従業員に伝えること
- 通知した金額を、決算日の翌日から1か月以内に全員へ支払うこと
- 通知した期の決算で、その金額を費用として計上していること
出典:国税庁「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」
「支給日に在籍している人だけ」はNG
就業規則などで「支給日に在籍している従業員にだけ支払う」としている場合、その通知は上記の「通知」に該当しないとされている。決算賞与を当期の経費にするつもりなら、この点は事前に確認が必要。
なお、役員賞与は原則として経費にならない。決算賞与で節税できるのは従業員の分だけで、役員側は期首に決めた役員報酬の話になる。
④ 交際費は「800万円」か「50%」の有利なほうを選ぶ
中小企業は年800万円まで全額経費にできる。1人1万円以下の飲食費は、そもそも交際費に入れなくていい。
資本金1億円以下の会社は、次のどちらかを選べる。
- 年800万円まで全額を経費にする
- 接待飲食費の**50%**を経費にする
ほとんどの中小企業は前者が有利だ。さらに、1人あたり1万円以下の飲食費(社内の人だけの飲食は除く)は交際費の枠を使わずに経費にできる。この基準は2024年4月1日以後に支出した分から5,000円→1万円に上がっている。
出典:国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」
決算前にできるのは、枠が余っているかを確認して、必要な会食を前倒しする程度。1万円以下の枠を使うには参加者の氏名・人数・店名を残した書類の保存が必要になる。詳しくは「交際費の損金算入 上限800万円と1万円ルール」にまとめた。
決算日を過ぎても、まだ間に合うもの
決算日の後にできるのは「手続き」だけ。経費を増やす行為はもう終わっている。
| できること | 期限 |
|---|---|
| 決算賞与の支払い | 決算日の翌日から1か月以内 |
| 少額減価償却資産の明細書(別表)の添付 | 申告書の提出時 |
| 消費税の簡易課税を選ぶ届出(2割特例・3割特例を使った期の翌期) | その課税期間の申告期限まで |
3行目は2026年(令和8年)の改正で緩和された点だ。本来は「使いたい期が始まる前日まで」に出さなければならないが、2割特例・3割特例を使った期の翌期については、申告期限までに出せば間に合うようになった。消費税まわりの2026年の変更は「インボイス2割特例が2026年終了 3割特例と簡易課税の選び方」で詳しく扱っている。
やらないほうがいい「決算対策」
税金は減っても現金が減る。これでは意味がない。
消耗品の買いだめ
毎期おおむね一定量を買って、経常的に使っているものだけが「買った年の経費」になる。
決算前に文房具や備品を大量に買い込んでも、いつもの量を大きく超えていれば、使っていない分は在庫(貯蔵品)として資産に残る。経費にならない。
出典:法人税基本通達2-2-15(消耗品費等)
決算間際の中古車購入
経費にできる金額は、使い始めた月から決算日までの月数で割られる。
4年落ちの中古車は1年で全額経費にできると言われるが、それは期首に買って1年間使った場合の話。決算日の1か月前に納車されたら、経費になるのは12分の1だけだ。詳細は「社用車を経費にする条件」で計算例を出している。
「税金を減らすため」だけの支出
100万円使って法人税が約30万円減っても、手元の現金は70万円減っている。必要な支出を前倒しするのが決算対策であって、不要な支出を作ることではない。
決算日からの逆算チェックリスト
| 時期 | やること |
|---|---|
| 決算3か月前 | 利益の着地見込みを出す/設備投資の要否を決める/共済への加入を検討する |
| 決算2か月前 | 設備の発注・納品スケジュールを確定する/決算賞与の原資を決める |
| 決算1か月前 | 40万円未満の資産を発注し、決算日までに使い始められるかを確認する/前払いの契約内容を確認する |
| 決算日まで | 決算賞与を各人別に通知する/交際費の枠を確認する/固定資産の実物を確認する |
| 決算日〜1か月 | 決算賞与を支払う |
| 申告期限まで | 明細書を添付する/消費税の届出を確認する |
この表の上から順に、間に合う手が減っていく。決算3か月前に一度シミュレーションしておくと、選択肢が最も多い状態で判断できる。
よくある質問
Q1. 決算日の1週間前です。今からできることはありますか?
限られますが、あります。決算賞与の通知(支払いは翌月でよい)、1年分の前払い(契約と支払いが済むもの)、すでに手元にある40万円未満の資産を使い始めるの3つは検討できます。逆に、設備投資や共済加入は間に合いません。
Q2. 40万円未満の特例は、個人事業主も使えますか?
使えます。青色申告をしている中小企業者等が対象で、個人事業主も含まれます。ただし2026年(令和8年)4月1日以後に取得したものから40万円未満になるので、取得日がいつかで判定が変わります。
Q3. 30万円の備品を10個買ったら、300万円すべて経費になりますか?
1つあたり40万円未満で、年間合計300万円までなので、計算上は収まります。ただし全部を決算日までに事業で使い始めている必要があります。倉庫に置いたままなら対象外です。
Q4. 前払いした家賃は、2年分まとめてもいいですか?
いいえ。支払った日から1年以内に受けるサービス分に限られます。24か月分をまとめて払うと、この扱いは使えず、期間に応じて配分することになります。
Q5. 決算賞与を通知したのに、支払いが1か月を過ぎたらどうなりますか?
その期の経費にはできず、実際に支払った期の経費になります。3つの条件はすべて満たす必要があり、1つでも欠けると当期には落とせません。
Q6. 経営セーフティ共済の掛金前払いは、まだ間に合いますか?
加入手続きから引き落としまでに時間がかかるため、決算直前の新規加入は現実的ではありません。すでに加入している場合の前納は選択肢になりますが、解約時の取扱いに注意点があります。「経営セーフティ共済で節税する」で確認してください。
Q7. 赤字の年に決算対策は必要ですか?
経費を増やす対策は不要です。むしろ利益を出す方向の検討(前払費用の扱いをやめる、資産計上できるものは資産にする)が必要になる場合があります。金融機関の評価にも影響するため、税理士に相談してください。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 一番大事なこと | 決算日を過ぎたら、経費を増やす手はほぼ残らない |
| 2026年の変更 | 買った年に全額経費にできるラインが40万円未満に拡大(4月1日以後の取得分) |
| 見落としやすい条件 | 資産は「買った」だけでなく使い始めていることが必要 |
| 決算賞与 | 決算日までに通知、翌日から1か月以内に支払い |
| 前払い | 1年以内の分だけ。しかも毎年続ける必要がある |
| やってはいけない | 税金を減らすためだけの支出。現金のほうが多く減る |
決算対策は、決算3か月前の一度のシミュレーションで結果がほぼ決まる。金額や適用条件は会社の状況で変わるので、実行前に必ず顧問税理士にご確認ください。