2026年10月、インボイス制度が大きく変わる。経営者が押さえるべきは3つだけだ。
① 納税額を売上税額の2割にできる「2割特例」が終わる。② 代わりに「3割特例」ができたが、使えるのは個人事業主だけで法人は対象外。③ 免税事業者から仕入れたときの80%控除が70%に下がる。
そして意外と知られていないのが、簡易課税の届出期限が大幅にゆるくなったことだ。これまで「前日までに出し忘れたら1年アウト」だったものが、申告期限まで待てるようになった。
この記事では、自社がいつまでに何を決めればいいかを、決算月別に整理する。
情報の時点
本記事は2026年8月時点の情報です。国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」(令和8年4月公表・5月改訂)および「2割特例の概要」で確認しています。自社がどれに当てはまるかは事業形態・決算月・売上規模で変わるので、判断の前に必ず顧問税理士にご確認ください。
2026年10月に変わること(全体像)
変更は3点。個人事業主と法人で扱いが分かれるのが今回の最大のポイント。
| 変わること | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 2026年分(令和8年分)で終了 | 2026年9月30日を含む事業年度で終了 |
| 3割特例(新設) | 令和9年分・令和10年分に使える | 使えない |
| 免税事業者からの仕入れ | 80% → 70%控除へ | 80% → 70%控除へ |
| 簡易課税の届出期限 | 申告期限まで緩和 | 申告期限まで緩和 |
法人にとっては「2割特例が終わって代わりがない」という話になる。個人事業主は2年間の猶予が追加された、と理解しておけばいい。
インボイス制度そのものの基本は「インボイス制度の実務対応」にまとめている。
① 2割特例は「2026年9月30日を含む課税期間」で終わる
2割特例が使えるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が入っている課税期間まで。自社の最後の1回がいつかは、決算月で決まる。
2割特例は、インボイス登録をきっかけに免税事業者から課税事業者になった人が、納税額を売上にかかる消費税の2割にできる制度だった。事前の届出は不要で、申告書に「使います」と書くだけで済んだ。
その適用期間が、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間で終わる。
個人事業主の場合
2026年分(令和8年分)の申告が最後。2027年3月31日までに提出するその申告で使い納めになる。
個人事業主の課税期間は毎年1月1日〜12月31日なので、2026年9月30日が入るのは2026年分。ここが最後だ。
法人の場合:決算月ごとの「最後の1回」
9月30日をまたぐ事業年度が最後。12月決算なら2026年12月期、3月決算なら2027年3月期が最終回になる。
| 決算月 | 最後に2割特例を使える事業年度 | その次の事業年度(もう使えない) |
|---|---|---|
| 3月決算 | 2026年4月〜2027年3月 | 2027年4月〜2028年3月 |
| 6月決算 | 2026年7月〜2027年6月 | 2027年7月〜2028年6月 |
| 9月決算 | 2025年10月〜2026年9月 | 2026年10月〜2027年9月 |
| 12月決算 | 2026年1月〜2026年12月 | 2027年1月〜2027年12月 |
9月決算の法人は、すでに最後の1回が終わっている(2026年9月期が最終)。10月から始まる期は、もう一般課税か簡易課税で計算しなければならない。決算月が9月に近いほど、対応の期限が早い。
そもそも2割特例が使えない人もいる
2割特例は「インボイス登録がなければ免税事業者だったはず」の人が対象です。基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える、資本金1,000万円以上の新設法人、課税期間を1か月・3か月に短縮している、といった場合はもともと対象外です。自社が使えていたかどうかは、過去の申告書を確認してください。
② 3割特例が新設。ただし個人事業主だけ
個人事業主は、令和9年分・令和10年分(2027年・2028年)の申告で、納税額を売上税額の3割にできる。法人は使えない。
計算はシンプルだ。
納付する税額 = 売上にかかる消費税 − 売上にかかる消費税 × 70%
= 売上にかかる消費税 × 30%
2割特例と同じく、仕入れや経費の消費税を1件ずつ集計する必要がない。受け取ったインボイスを保存して集計する手間がなくなるので、事務負担はかなり軽い。
使えるのはこの条件を全部満たす人
個人・売上1,000万円以下・インボイス登録済み。この3つが軸。
- 個人事業主であること(法人は不可)
- 基準期間=適用を受ける年の2年前の課税売上高が1,000万円以下(令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)
- 特定期間=前年1月〜6月の課税売上高(または給与等支払額)も1,000万円以下
- インボイス発行事業者の登録を受けていること
- インボイス登録(または課税事業者選択届出書の提出)がなければ免税事業者だったはずの年であること
次のような場合は使えない。
- 法人
- 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、インボイスと関係なく課税事業者になる年
- 相続によって課税事業者となる課税期間
- 高額な資産(調整対象固定資産・高額特定資産)を取得して免税事業者に戻れない年
- 届出により課税期間を短縮している場合
- 1月1日時点で国内に恒久的施設を持たない国外事業者
手続きは「申告書に書くだけ」
事前の届出は不要。確定申告書の所定欄に、3割特例を使う旨を記載すれば適用される。
年ごとに使うかどうかを判断できるので、「今年は設備投資が多いから一般課税、来年は3割特例」という選び方も検討できる。なお、すでに簡易課税制度選択届出書を提出している場合の扱いは自社の状況によって変わるため、税理士に確認してほしい。
③ 免税事業者からの仕入れは80%→70%控除に
これは個人・法人を問わず、全事業者に効く。2026年10月1日を境に控除できる割合が下がる。
インボイスを出せない相手(免税事業者など)から仕入れても、一定割合は控除できる経過措置がある。今回の改正で適用期限が2年延長された一方、割合は段階的に引き下げられた。
| 時期 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80% | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 50% | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50%(2029年9月まで) | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 控除不可 | 30% |
| 2031年10月1日〜 | 控除不可 | 控除不可 |
改正前は2026年10月にいきなり50%へ落ちる予定だったので、引き下げ幅は当初想定より緩やかになった。免税事業者との取引が多い会社にとっては朗報だ。
新設された「1億円の壁」に注意
同じ免税事業者からの課税仕入れが年間1億円を超えると、超えた部分はこの経過措置を使えない。
改正前の上限は10億円だったので、大幅な引き下げだ。適用は2026年10月1日以後に開始する課税期間から。特定の外注先に大きく依存している会社は、年間の取引額を確認しておきたい。
10月に会計ソフトの税区分を切り替える
この経過措置を使うには、帳簿に「7・5・3割控除の対象である旨」を記載して保存する必要があります。会計ソフトでは「80%控除」の税区分を使っているはずなので、2026年10月1日以後の取引から区分を切り替える設定作業が発生します。10月をまたぐ月次処理の前に確認しておきましょう。ソフトごとの機能差は「会計ソフト徹底比較」も参考にしてください。
結局どれが得か:3割特例 vs 簡易課税
業種によって答えが逆転する。卸売・小売なら簡易課税、サービス業・不動産業なら3割特例が有利になりやすい。
簡易課税は、業種ごとの「みなし仕入率」で控除額を決める仕組み。控除率が高いほど納税額は減る。3割特例は控除率が一律70%なので、みなし仕入率が70%より高いか低いかで勝敗が決まる。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 | 簡易課税の納付 | 3割特例の納付 | 有利なほう |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 売上税額の10% | 30% | 簡易課税 |
| 第2種 | 小売業、農林水産業(飲食料品) | 80% | 20% | 30% | 簡易課税 |
| 第3種 | 製造業、建設業、鉱業など | 70% | 30% | 30% | どちらも同じ |
| 第4種 | 飲食店業など | 60% | 40% | 30% | 3割特例 |
| 第5種 | サービス業、運輸通信業、金融・保険業 | 50% | 50% | 30% | 3割特例 |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 60% | 30% | 3割特例 |
※ 売上に対する割合だけを単純比較したものです。売上値引・返品が多い場合や、複数の事業区分にまたがる場合は結果が変わります。
国税庁も「卸売業や小売業、飲食料品の譲渡を行う農林水産業の方などは、簡易課税制度を適用した方が高いみなし仕入率が適用されます」として、3割特例より納税額が少なくなると説明している。
設備投資の予定があるなら一般課税も検討する
大きな設備投資で仕入れの消費税が売上の消費税を上回る年は、一般課税なら還付を受けられる。3割特例や簡易課税では通常、還付は生じない。
翌年に事務所の内装、車両、機械などの大型支出を予定しているなら、その年だけ一般課税で申告するほうが有利になることがある。ただしインボイスの保存と実額集計が必要になるので、手間とのトレードオフだ。
法人の場合は3割特例が使えないので、比較するのは一般課税と簡易課税の2択になる。消費税の計算方法そのものは「消費税の仕組みを30分で理解する」で確認できる。
届出期限が大幅にゆるくなった(円滑な移行措置)
簡易課税は本来「使いたい期が始まる前日まで」に届出が必要。それが2割特例・3割特例の翌期に限り、その期の申告期限まで待てるようになった。
これが実務上いちばん効く改正だ。従来は決算前に判断を迫られたが、1年間の実績を見てから「簡易課税にする」と決められるようになった。
自社の届出期限(ケース別)
多くのケースで、期限は2027年後半から2028年。「まだ先」だが、忘れやすいので今カレンダーに入れておく。
| ケース | 簡易課税を始めたい課税期間 | 届出期限 |
|---|---|---|
| 個人事業主・3割特例を使わず切り替える | 2027年分(令和9年分) | 2028年3月31日 |
| 個人事業主・3割特例を2年使ってから | 2029年分(令和11年分) | 2030年4月1日 |
| 12月決算法人 | 2027年1月〜12月期 | 2028年2月29日 |
| 3月決算法人 | 2027年4月〜2028年3月期 | 2028年5月31日 |
| 9月決算法人 | 2026年10月〜2027年9月期 | 2027年11月30日 |
※ 法人の消費税の申告期限は原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内です。申告期限の延長特例を受けている法人は、その延長後の期限が届出期限になります。期限日が土日祝の場合は翌開庁日にずれます。
ゆるくなったのは「特例の翌期だけ」
この緩和が使えるのは、2割特例または3割特例を実際に適用した課税期間の、次の課税期間から簡易課税を始める場合に限られます。1年空けてから簡易課税にしたい、という場合は原則どおり「前日まで」に戻ります。また、2割特例の翌課税期間が2026年9月30日以前に終わる場合は、その課税期間の末日が期限です。届出関係の期限は「経営者の税金カレンダー」にもまとめています。
簡易課税を選ぶ前に知っておく2つの制約
5,000万円の上限と、2年間の継続適用。この2つは緩和されていない。
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間しか適用できない
- 一度選んだら、事業をやめた場合を除き2年間は継続適用が必要(途中で一般課税に戻れない)
2年縛りがあるため、「来期は簡易課税、再来期は大型投資だから一般課税で還付」という切り替えはできない。投資計画とセットで判断する必要がある。
いま(2026年8月)やること
決算月に関係なく、次の4つを順にやっておけばいい。
- 自社の「最後の2割特例」がいつかを特定する … 決算月から上の表で確認する
- その次の期の計算方法を仮決めする … 業種のみなし仕入率と、設備投資の予定から判断する
- 10月1日をまたぐ会計処理の準備をする … 免税事業者からの仕入れの税区分を80%→70%に切り替える
- 届出期限をカレンダーに入れる … 緩和されたとはいえ、申告期限に届出も出すなら失念しやすい
このうち急ぐのは3番だ。10月1日は待ってくれない。日々の記帳の設定を先に直しておくほうが、後の手戻りが少ない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法人は本当に3割特例を使えないのですか?
使えません。国税庁の資料でも「法人は3割特例適用不可」と明記されています。3割特例は「小規模個人事業者に係る税額控除に関する経過措置」という名称のとおり、個人事業者に限定された制度です。法人は2割特例の終了後、一般課税か簡易課税のいずれかで計算することになります。
Q2. 3割特例を使うために、何か届出は必要ですか?
事前の届出は不要です。確定申告書の所定欄に3割特例の適用を受ける旨を記載するだけで適用できます。ただし記載を忘れると適用されないので、申告時のチェック項目にしておいてください。
Q3. 免税事業者への支払いは、10月から値下げ交渉すべきですか?
控除できる割合が80%から70%に下がる分、自社の負担は増えます。ただし、消費税分について協議をせずに一方的に価格を据え置いたり引き下げたりすると、独占禁止法上の優越的地位の濫用にあたるおそれがあります(公正取引委員会ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」)。再交渉のうえ双方が納得して価格を決めるのであれば問題にはならない、というのが公表されている考え方です。なお2026年1月から下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わり、規制対象も広がっています。見直すなら必ず相手と協議し、合意内容を書面に残してください。
Q4. 2026年9月決算の法人です。もう間に合いませんか?
2026年9月期で2割特例は使い納めですが、簡易課税への切り替えは間に合います。2026年10月から始まる期に簡易課税を適用したい場合、その期の申告期限(2027年11月30日)までに届出書を提出すれば適用できます。慌てて9月中に判断する必要はありません。
Q5. 1万円未満の取引はインボイス不要という特例(少額特例)はどうなりましたか?
今回の改正では変更されていません。基準期間の課税売上高が1億円以下などの要件を満たす事業者について、1万円未満の課税仕入れはインボイスの保存が不要(帳簿の保存のみ)とされる措置で、2029年9月30日までが適用期限です。
Q6. 個人事業主ですが、3割特例と簡易課税のどちらがいいか自分で決められません。
まず自社の事業区分(みなし仕入率)を確認してください。卸売業・小売業なら簡易課税、サービス業・不動産業なら3割特例が有利になりやすい、というのが出発点です。届出期限が申告期限まで緩和されたので、1年分の実績が固まってから両方で試算して決めるという進め方ができます。試算そのものは会計ソフトでも可能ですが、事業区分の判定は誤りやすいので税理士に確認してください。
まとめ
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。個人は2026年分、法人は決算月しだい。
- 3割特例は個人事業主のみ、令和9年分・令和10年分の2年間。法人に代替措置はない。
- 免税事業者からの仕入れは10月から70%控除。当初予定の50%より緩やかになった。ただし年1億円超の部分は対象外。
- 3割特例と簡易課税の損得は業種で逆転する。卸売・小売は簡易課税、サービス業・不動産業は3割特例。
- 簡易課税の届出期限が申告期限まで緩和。実績を見てから決められるようになった。
税理士に確認すべきこと
・自社が最後に2割特例を使える課税期間と、その次の期の計算方法
・自社の事業区分(みなし仕入率)の判定が正しいか
・簡易課税の届出をすでに出している場合、3割特例との関係がどうなるか
・翌期以降の設備投資予定を踏まえて、一般課税で還付を狙うべきか
・免税事業者との取引条件を見直す場合の進め方
これらは事業形態・決算月・売上規模で結論が変わります。最終判断は必ず顧問税理士にご相談ください。
参考(一次情報)
- 国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」(3割特例・簡易課税への円滑な移行措置・7・5・3割控除)
- 国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(令和8年4月・令和8年5月改訂)
- 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
- 国税庁 インボイスQ&A 問117-3「3割特例を適用するよりも簡易課税制度を適用した方が納付税額が少なくなる場合」(令和8年4月追加)
- 国税庁 インボイスQ&A 問115-2「3割特例の適用ができない課税期間」
- 公正取引委員会ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(取引価格の見直しと独占禁止法の考え方)
※ 2割特例の根拠は平成28年改正法附則51条の2、簡易課税制度の届出期限の特例は同附則51条の2第6項です。