所得税の基本 ── 経営者が知っておくべき税金の仕組み
所得税の計算は4ステップ
所得税は「稼いだ金額」にそのまま税率がかかるわけではありません。4つのステップで段階的に計算されます。この流れを理解すれば、節税の仕組みも見えてきます。
所得を計算する
売上(収入)から必要経費を差し引いて「所得」を算出。所得の種類は10種類ある。
所得控除を差し引く
所得から各種控除(基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除等)を差し引いて「課税所得」を算出。
税率をかけて所得税額を計算
課税所得に累進税率(5〜45%)をかけて所得税額を算出。
税額控除を差し引く
所得税額から税額控除(住宅ローン控除、配当控除等)を差し引いて最終的な「納付額」を算出。
収入 − 必要経費 = 所得
所得 − 所得控除 = 課税所得
課税所得 × 税率 − 速算控除額 = 所得税額
所得税額 − 税額控除 = 納付税額
10種類の所得
所得税法では所得を10種類に分類し、それぞれ計算方法が異なります。経営者に関係する主な所得は以下の通りです。
| 所得の種類 | 内容 | 経営者との関連 |
|---|---|---|
| 事業所得 | 事業から得た所得 | 個人事業主の利益 |
| 給与所得 | 給与・賞与 | 法人役員の役員報酬 |
| 不動産所得 | 家賃収入等 | 不動産投資をしている場合 |
| 配当所得 | 株式の配当等 | 自社株式・投資の配当 |
| 譲渡所得 | 資産の売却益 | 株式・不動産の売却 |
| 退職所得 | 退職金 | 法人役員の退職金 |
| 利子所得 | 預金利息等 | 預金利息(源泉分離課税) |
| 一時所得 | 懸賞金、保険金等 | 保険の満期返戻金 |
| 雑所得 | 上記に該当しない所得 | 副業収入、年金等 |
| 山林所得 | 山林の伐採等 | 山林を所有している場合 |
個人事業主と法人役員で所得の種類が変わる
個人事業主の利益は「事業所得」ですが、法人化して役員報酬を受け取ると「給与所得」になります。給与所得には給与所得控除が適用されるため、同じ金額でも法人役員のほうが課税所得が少なくなります。これが法人化の大きなメリットの一つです。
所得税の税率 ── 累進課税
日本の所得税は超過累進税率を採用しています。これは、所得が増えるほど高い税率が適用される仕組みです。
2026年の所得税率表
| 課税所得 | 税率 | 控除額 | 実質税率の目安 |
|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 0円 | 5% |
| 195万〜330万円 | 10% | 97,500円 | 約7〜9% |
| 330万〜695万円 | 20% | 427,500円 | 約12〜17% |
| 695万〜900万円 | 23% | 636,000円 | 約17〜19% |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 1,536,000円 | 約20〜27% |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 2,796,000円 | 約30〜36% |
| 4,000万円〜 | 45% | 4,796,000円 | 37%〜 |
注意: これに加えて**住民税10%と復興特別所得税2.1%**が上乗せされます。
超過累進税率の計算例
課税所得が700万円の場合:
| 所得の区分 | 金額 | 税率 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 195万円 | 5% | 97,500円 |
| 195万〜330万円 | 135万円 | 10% | 135,000円 |
| 330万〜695万円 | 365万円 | 20% | 730,000円 |
| 695万〜700万円 | 5万円 | 23% | 11,500円 |
| 合計 | 700万円 | — | 974,000円 |
速算表を使うと: 700万円 × 23% − 636,000円 = 974,000円(同じ結果)
さらに住民税: 700万円 × 10% = 700,000円
所得税+住民税の合計: 約167万円(課税所得700万円に対して約24%)
所得控除の全15種類
所得控除は「課税所得を減らす」ことで税負担を軽減する仕組みです。使える控除は全て使い切ることが最も確実な節税です。
人的控除
| 控除名 | 控除額 | 要件 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 48万円(所得2,400万円以下) | 全員 |
| 配偶者控除 | 最大38万円 | 配偶者の合計所得金額48万円以下 |
| 配偶者特別控除 | 最大38万円 | 配偶者の合計所得金額48万〜133万円 |
| 扶養控除 | 38〜63万円 | 扶養親族の年齢等による |
| 障害者控除 | 27〜75万円 | 本人・配偶者・扶養親族が障害者 |
| 寡婦控除 | 27万円 | 寡婦に該当する場合 |
| ひとり親控除 | 35万円 | ひとり親に該当する場合 |
| 勤労学生控除 | 27万円 | 勤労学生に該当する場合 |
物的控除
| 控除名 | 控除額 | 要件 |
|---|---|---|
| 社会保険料控除 | 支払額全額 | 国保、国民年金、健保、厚生年金等 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 支払額全額 | 小規模企業共済、iDeCo等 |
| 生命保険料控除 | 最大12万円 | 生命保険、医療保険、個人年金 |
| 地震保険料控除 | 最大5万円 | 地震保険料 |
| 医療費控除 | 超過分(最大200万円) | 年間医療費が10万円超(所得200万円未満は所得の5%超) |
| 寄附金控除 | 寄附金−2,000円 | ふるさと納税、認定NPO等 |
| 雑損控除 | 損害額に応じて | 災害・盗難・横領による損害 |
経営者が見落としやすい控除
この3つの控除を使いこなす
1. 小規模企業共済等掛金控除(iDeCo含む) iDeCoの掛金は全額所得控除になります。個人事業主なら最大月68,000円(年81.6万円)。法人役員でも月23,000円(年27.6万円)が控除可能です。
2. 医療費控除 家族全員分の医療費を合算できます。歯科矯正(治療目的)、レーシック手術、通院のための交通費なども対象です。
3. ふるさと納税(寄附金控除) 実質2,000円の負担で地域の特産品がもらえます。所得が高いほど控除上限額が大きく、高所得の経営者には非常にお得です。
青色申告特別控除
個人事業主にとって最大の控除が青色申告特別控除です。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | 複式簿記+e-Taxで電子申告(または電子帳簿保存) |
| 55万円 | 複式簿記で記帳(紙の申告) |
| 10万円 | 簡易簿記で記帳 |
65万円控除の節税効果
| 課税所得 | 適用税率 | 65万円控除の節税額(所得税+住民税) |
|---|---|---|
| 300万円 | 10%+10% | 約13万円 |
| 500万円 | 20%+10% | 約19.5万円 |
| 700万円 | 23%+10% | 約21.5万円 |
| 1,000万円 | 33%+10% | 約28万円 |
e-Taxでの電子申告が必要
2020年分の確定申告から、65万円の青色申告特別控除を受けるにはe-Taxでの電子申告が必須になりました。紙の申告書を提出すると控除額が55万円に下がります。マイナンバーカードを使ったe-Taxの設定は、確定申告シーズン前に済ませておきましょう。
所得控除 vs 税額控除
この違いを理解しておくと、節税効果の大きさを正確に評価できます。
| 所得控除 | 税額控除 | |
|---|---|---|
| 効果 | 課税所得を減らす | 税額を直接減らす |
| 節税額 | 控除額 × 税率 | 控除額そのもの |
| 税率との関係 | 高所得者ほど効果が大きい | 所得に関係なく一定 |
| 代表例 | 基礎控除、社会保険料控除 | 住宅ローン控除、配当控除 |
具体例で比較
所得控除100万円の効果(課税所得500万円、税率20%の場合):
- 節税額: 100万円 × 20% = 20万円
税額控除100万円の効果:
- 節税額: そのまま100万円
税額控除のほうが直接的に税金が減るため、効果が大きいです。
主な税額控除
| 税額控除 | 内容 | 控除額の目安 |
|---|---|---|
| 住宅ローン控除 | 住宅ローン残高の0.7% | 最大年21〜35万円(新築の場合) |
| 配当控除 | 配当所得の一定割合 | 配当所得の5〜10% |
| 外国税額控除 | 外国で納めた税金 | 外国で課税された金額 |
| 認定NPO等寄附金特別控除 | 認定NPOへの寄附 | (寄附金-2,000円)×40% |
確定申告の基本
確定申告が必要な人
| 対象 | 条件 |
|---|---|
| 個人事業主 | 事業所得がある場合は原則必要 |
| 法人役員 | 年収2,000万円超、または2か所以上から給与がある場合 |
| 給与所得者 | 副業の所得が20万円超の場合 |
| 不動産所得がある人 | 家賃収入がある場合 |
| 株式等の譲渡所得 | 特定口座(源泉徴収あり)以外の場合 |
| 医療費控除を受けたい人 | 年末調整では控除できないため |
| ふるさと納税のワンストップ特例不適用 | 6自治体以上に寄附した場合 |
確定申告の期限
| 区分 | 期限 |
|---|---|
| 所得税の確定申告 | 翌年2月16日〜3月15日 |
| 消費税の確定申告 | 翌年3月31日 |
| 個人事業税の申告 | 所得税の確定申告で自動 |
| 住民税の申告 | 所得税の確定申告で自動 |
申告方法
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| e-Tax(電子申告) | 自宅からオンラインで完結。青色65万円控除に必要 |
| 税務署に持参 | 窓口で質問しながら提出可能 |
| 郵送 | 期限日の消印有効 |
| 税理士に依頼 | 費用はかかるが確実。法人役員は推奨 |
経営者のための所得税節税戦略
個人事業主の節税
| 節税方法 | 効果 | 優先度 |
|---|---|---|
| 青色申告(65万円控除) | 年13〜28万円の節税 | ★★★★★ |
| 小規模企業共済 | 掛金全額控除(最大年84万円) | ★★★★★ |
| iDeCo | 掛金全額控除(最大年81.6万円) | ★★★★ |
| ふるさと納税 | 実質2,000円で返礼品 | ★★★★ |
| 経費の適正計上 | 事業に関連する支出を漏れなく | ★★★★★ |
| 専従者給与 | 配偶者・親族への給与を経費化 | ★★★ |
| 減価償却の活用 | 設備投資を経費化 | ★★★ |
法人役員の節税
| 節税方法 | 効果 | 優先度 |
|---|---|---|
| 役員報酬の最適化 | 法人税と所得税のバランス調整 | ★★★★★ |
| 給与所得控除の活用 | 最大195万円の控除 | ★★★★★(自動適用) |
| iDeCo | 掛金全額控除(月23,000円) | ★★★★ |
| ふるさと納税 | 実質2,000円で返礼品 | ★★★★ |
| NISA | 運用益非課税 | ★★★ |
| 住宅ローン控除 | 最大年35万円の税額控除 | ★★★★(該当者のみ) |
まず「控除の使い残し」を確認
節税の第一歩は、使える控除を使い切ること。特に小規模企業共済とiDeCoは、加入しているだけで毎年数万円〜数十万円の節税になります。「iDeCo・NISA活用法」で詳しく解説しています。
ふるさと納税の上限額目安
経営者は所得が高いため、ふるさと納税の上限額も大きくなります。
| 課税所得 | ふるさと納税の上限額(目安) | 実質負担 |
|---|---|---|
| 300万円 | 約28,000円 | 2,000円 |
| 500万円 | 約60,000円 | 2,000円 |
| 700万円 | 約108,000円 | 2,000円 |
| 1,000万円 | 約176,000円 | 2,000円 |
| 1,500万円 | 約389,000円 | 2,000円 |
| 2,000万円 | 約564,000円 | 2,000円 |
※ 配偶者控除、扶養控除等の有無で変動します。
FAQ ── よくある質問
Q1. 所得税と住民税の違いは何ですか?
所得税は国税(国に納める税金)、住民税は地方税(都道府県と市区町村に納める税金)です。所得税は累進税率(5〜45%)ですが、住民税は所得に関係なく一律10%(都道府県4%+市区町村6%)+均等割(年額約5,000円)です。
Q2. 復興特別所得税とは何ですか?
東日本大震災の復興財源として、2037年12月31日まで**所得税額の2.1%**が上乗せされる税金です。例えば所得税が100万円なら、復興特別所得税は2.1万円です。
Q3. 給与所得控除と青色申告特別控除は両方使えますか?
両方を同時に使うことはできません。個人事業主は青色申告特別控除、法人役員は給与所得控除が適用されます。法人化すると青色申告特別控除は使えなくなりますが、給与所得控除(最大195万円)のほうが金額が大きいケースが多いです。
Q4. 経費として認められるのはどこまでですか?
「事業に直接関連する支出」が経費として認められます。売上を得るために必要な支出かどうかがポイントです。プライベートとの区分が曖昧な支出(自宅の家賃、光熱費、通信費等)は、事業使用割合に応じた按分計算で経費にできます。
Q5. 確定申告を間違えた場合はどうすればいいですか?
申告期限内なら訂正申告(再度申告書を提出)、期限後なら修正申告(税額が少なかった場合)または更正の請求(税額が多かった場合)を行います。修正申告の場合は延滞税が発生する可能性があります。
Q6. 法人化した年の確定申告はどうなりますか?
法人化した年は、1月1日〜法人設立前日までの個人事業の確定申告が必要です。設立日以降は法人の事業として扱われるため、個人の事業所得はありません。ただし、法人からの役員報酬(給与所得)は年末調整の対象になります。
Q7. 所得税の節税で最も効果が大きいのは何ですか?
法人化による所得分散が最も効果が大きいです。課税所得が700万円を超えると、法人化して役員報酬を設定することで、年間数十万円〜百万円以上の節税が可能です。法人化が難しい場合は、小規模企業共済+iDeCo+ふるさと納税の3点セットが最も確実な節税策です。
まとめ
所得税の仕組みは「所得→控除→税率→税額控除」の4ステップです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 計算の流れ | 収入−経費−控除=課税所得→税率→税額控除→納付額 |
| 税率 | 5〜45%の累進課税(+住民税10%) |
| 最優先の節税 | 使える所得控除を全て使い切る |
| 経営者の必須控除 | 小規模企業共済、iDeCo、ふるさと納税 |
| 法人化の効果 | 給与所得控除+所得分散で大幅な節税 |
所得税の理解は、法人化の判断にも直結します。「法人化すべきタイミング」「役員報酬の決め方」とあわせて、自分に最適な税戦略を検討してください。