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役員報酬の決め方 ── 法人と個人の税金を最適化する
法人化 約14分で読めます

役員報酬の決め方 ── 法人と個人の税金を最適化する

役員報酬はなぜ重要か

法人化後に行う最も重要な意思決定が役員報酬の設定です。なぜなら、役員報酬の金額によって「法人に残す利益」と「個人が受け取る給与」のバランスが決まり、法人税・所得税・住民税・社会保険料の全てに影響するからです。

法人の売上 − 経費 = 利益(税引前)
├→ 法人に残す部分 → 法人税等(約22〜34%)
└→ 役員報酬として支給 → 所得税+住民税(約15〜55%)+ 社会保険料(約30%)

この配分を最適化するだけで、年間数十万円〜百万円以上の差が出ることがあります。


役員報酬の基本ルール

定期同額給与

法人税法上、役員報酬が経費(損金)として認められるためには、以下のルールを守る必要があります。

ルール内容違反した場合
定期同額毎月同じ金額を支給増額分が損金不算入
変更期限事業年度開始後3ヶ月以内変更分が損金不算入
年間固定一度決めたら1年間変更不可差額が損金不算入
⚠️

途中変更は絶対NG

「今月は売上が良かったから報酬を上げよう」「資金繰りが厳しいから下げよう」は認められません。増額分は経費として認められなくなります。減額も、経営状況の著しい悪化(売上の大幅減少等)がなければ認められません。

事前確定届出給与(ボーナス)

役員にもボーナスを支給できますが、事前に税務署に届け出が必要です。

項目内容
届出先所轄税務署
届出期限株主総会決議日から1ヶ月以内 or 事業年度開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日
届出内容支給日と支給額を正確に記載
注意点届出通りの日付・金額でなければ全額が損金不算入

役員報酬の3つの形態

形態内容損金算入
定期同額給与毎月同額の報酬
事前確定届出給与事前届出によるボーナス○(届出通りなら)
業績連動給与利益に応じた報酬○(上場企業等のみ)

中小企業では、実質的に定期同額給与のみを使うケースがほとんどです。


役員報酬の決め方 ── 5つのステップ

Step 1

年間利益を予測する

売上予測から経費を差し引き、役員報酬を支給する前の年間利益を見積もる。

Step 2

法人税と所得税のバランスを検討

法人に残す利益と個人が受け取る報酬の配分を検討。税率の違いを活用。

Step 3

社会保険料を計算に入れる

報酬額に応じた社会保険料(会社負担+個人負担)を計算。

Step 4

給与所得控除の効果を反映

役員報酬には給与所得控除が適用されるため、実質的な税負担が下がる。

Step 5

生活費を考慮して最終決定

税金の最適化だけでなく、手取りで生活できるかも重要。


給与所得控除 ── 法人化最大のメリット

役員報酬には給与所得控除が自動的に適用されます。これは個人事業主にはない、法人化の大きなメリットです。

2026年の給与所得控除額

給与収入(役員報酬)給与所得控除額課税対象
162.5万円以下55万円給与-55万円
162.5万〜180万円収入×40%-10万円
180万〜360万円収入×30%+8万円
360万〜660万円収入×20%+44万円
660万〜850万円収入×10%+110万円
850万円超195万円(上限)給与-195万円

具体例

役員報酬給与所得控除課税対象額控除率
300万円98万円202万円33%
500万円144万円356万円29%
700万円180万円520万円26%
1,000万円195万円805万円20%
1,500万円195万円1,305万円13%

報酬600万円なら、給与所得控除164万円が適用され、何もしなくても164万円分の経費が認められるのと同じ効果があります。


所得別シミュレーション ── 最適な報酬額

法人の年間利益600万円の場合

報酬額法人税等所得税+住民税社会保険料(会社+個人)税・社保合計
200万円約60万円約10万円約60万円約130万円
300万円約45万円約16万円約85万円約146万円
400万円約30万円約24万円約110万円約164万円
500万円約15万円約35万円約140万円約190万円

利益600万円の場合、報酬を抑えめ(200〜300万円)にするほうがトータルの負担が小さくなります。ただし手取りの生活費も考慮が必要です。

法人の年間利益1,200万円の場合

報酬額法人税等所得税+住民税社会保険料(会社+個人)税・社保合計
400万円約160万円約24万円約110万円約294万円
600万円約110万円約46万円約170万円約326万円
800万円約60万円約80万円約215万円約355万円
1,000万円約30万円約120万円約260万円約410万円

利益1,200万円の場合、報酬400〜600万円あたりが税・社保のトータルで最も効率的です。

法人の年間利益2,000万円の場合

報酬額法人税等所得税+住民税社会保険料(会社+個人)税・社保合計
600万円約280万円約46万円約170万円約496万円
800万円約220万円約80万円約215万円約515万円
1,000万円約170万円約120万円約260万円約550万円
1,200万円約120万円約170万円約290万円約580万円

利益2,000万円規模では、報酬を600〜800万円に抑え、法人に利益を残すほうがトータルの負担が小さくなる傾向があります。

ℹ️

シミュレーションは概算です

上記は扶養家族なし、他の所得控除なし、東京都の社会保険料率で計算した概算値です。実際の最適額は個人の状況によって大きく異なります。税理士に正確なシミュレーションを依頼してください。


社会保険料の影響

役員報酬を決める際に見落としがちなのが社会保険料の負担です。

社会保険料率(2026年度、東京都の協会けんぽの場合)

保険料率(会社+個人合計)上限月額(標準報酬月額)
健康保険約9.98%1,390,000円
介護保険(40〜64歳)約1.60%同上
厚生年金約18.30%650,000円
合計約29.88%

つまり、報酬の約30%が社会保険料として消えます。会社負担と個人負担が半分ずつですが、一人社長の場合は実質的に全額が自分の負担です。

標準報酬月額の上限を活用

厚生年金の標準報酬月額には**上限65万円(年収780万円相当)**があります。これを超える報酬を設定しても、厚生年金の保険料は変わりません。

月額報酬厚生年金保険料(会社+個人)健康保険料(会社+個人)
30万円約54,900円約29,940円
50万円約91,500円約49,900円
65万円約118,950円約64,870円
80万円約118,950円(上限)約79,840円
100万円約118,950円(上限)約99,800円

配偶者を役員にする場合

メリット

配偶者を役員にして報酬を支給すると、所得分散により家族全体の税負担を減らせます。

シナリオ社長のみ報酬800万円社長600万円+配偶者200万円
所得税+住民税(合計)約80万円約56万円
社会保険料(合計)約215万円約195万円
差額約44万円の節税

注意点

リスク内容
不相当に高額な報酬業務実態に見合わない報酬は税務否認のリスク
業務の実態が必要経理、総務、営業事務など実際に従事していること
社会保険の二重加入配偶者がパートで別の社会保険に加入している場合は要確認
103万円・130万円の壁配偶者控除や社会保険の扶養から外れる可能性
⚠️

税務調査で否認されるケース

配偶者が実際に業務に従事していない、または業務内容に対して報酬が不相当に高額な場合、税務調査で損金不算入とされるリスクがあります。業務内容と報酬額の相当性を説明できるよう、出勤簿や業務日報を残しておきましょう。


役員報酬を変更する場合

変更できるタイミング

タイミング可否備考
事業年度開始後3ヶ月以内株主総会(社員総会)の決議が必要
事業年度途中の増額×増額分が損金不算入
経営悪化による減額「経営状況の著しい悪化」が要件
病気等の特別な事由個別判断

変更手続きの流れ

1

利益予測の見直し

前期の実績と今期の見通しを基に、最適な報酬額を再計算。

2

税理士と相談

税額シミュレーションを実施し、最適額を決定。

3

株主総会(社員総会)の開催

決議を行い、議事録を作成。一人社長でも議事録は必須。

4

翌月の給与から新額を適用

変更月の翌月支給分から新しい金額で支給開始。


初年度の役員報酬 ── 特に注意が必要

初年度は売上予測が難しいため、報酬設定で失敗しやすい時期です。

よくある失敗パターン

失敗1: 報酬を高く設定しすぎる

楽観的な売上予測に基づいて報酬を高く設定し、実際の売上が予測を下回った場合、法人の資金が不足します。報酬は途中で下げられないため、個人の貯蓄から法人に貸し付けることになります。

失敗2: 報酬を0円にしてしまう

節税を意識しすぎて報酬を0円にすると、社会保険に加入できず、個人の生活費もありません。また、給与所得控除というメリットを全く活用できなくなります。

失敗3: 社会保険料を計算に入れていない

報酬額だけ見て「手取りはこれくらいだろう」と計算し、社会保険料(約15%の天引き+会社負担約15%)を忘れるパターンです。

初年度の安全な決め方

利益予測おすすめの報酬額理由
不確実月20〜30万円(年240〜360万円)リスクを最小化。2年目に見直し
ある程度確実月40〜50万円(年480〜600万円)給与所得控除のメリットを活用
確実性が高い利益予測に基づく最適額税理士のシミュレーション推奨
💡

初年度は保守的に

初年度は利益予測の精度が低いため、やや低めに設定しておくのが安全です。2年目以降、実績データに基づいて最適額に引き上げましょう。低すぎて法人に利益が残りすぎるほうが、高すぎて資金不足になるよりずっとマシです。


法人に利益を残すメリット

報酬を抑えて法人に利益を残すことにも、以下のメリットがあります。

メリット内容
内部留保事業拡大や設備投資のための資金を確保
融資の有利性黒字法人のほうが銀行融資を受けやすい
退職金の原資将来の退職金支給のための積み立て
税率の活用800万円以下は法人税率15%で有利
経営セーフティ共済掛金全額が損金になる節税手段を活用

FAQ ── よくある質問

Q1. 役員報酬は手取りでいくらもらえますか?

額面から所得税・住民税・社会保険料(個人負担分)を差し引いた金額が手取りです。目安として、額面の**60〜75%**が手取りになります。例えば月額50万円の報酬なら、手取りは約33〜37万円程度です。

Q2. 一人社長でも株主総会の議事録は必要ですか?

必要です。一人社長の場合でも、役員報酬を決定する際は株主総会(合同会社なら社員総会)の議事録を作成・保管してください。税務調査で提出を求められることがあります。

Q3. 役員報酬と役員賞与の違いは?

役員報酬(定期同額給与)は毎月同額を支給するもの。役員賞与(事前確定届出給与)は事前に届出をした上で、特定の時期に支給するものです。届出がないまま賞与を支給すると、全額が損金不算入になります。

Q4. 決算で赤字になりそうな場合、役員報酬を下げられますか?

原則として途中変更はできません。ただし、「経営状況の著しい悪化」があれば減額が認められる場合があります。これは単に「業績が下がった」ではなく、「取引先の倒産」「災害」「銀行からの要請」など客観的な事由が必要です。税理士に相談してから判断してください。

Q5. 役員報酬の最低額はありますか?

法律上の最低額はありません。月額1円でも設定可能です。ただし、社会保険に加入するためには一定以上の報酬が必要です(健康保険・厚生年金の最低等級である月額88,000円以上が目安)。

Q6. 法人化1年目と2年目で報酬を変えてもいいですか?

はい。各事業年度の開始後3ヶ月以内であれば、報酬額を変更できます。1年目は保守的に設定し、2年目に実績データに基づいて見直すのは一般的な対応です。

Q7. 役員報酬以外に法人から個人にお金を渡す方法は?

以下の方法があります。いずれも税務上のルールを守る必要があります。

  • 出張手当(日当): 法人の経費かつ個人は非課税。旅費規程の作成が必要
  • 社宅: 法人名義で賃貸し、差額を個人が負担。実質的な節税効果あり
  • 退職金: 退職時に退職所得として有利に受け取れる
  • 配当: 法人の利益から支給。配当所得として課税される

まとめ ── 役員報酬の決め方チェックリスト

チェック項目確認
年間利益の予測は立てたか
法人税と所得税の税率差を比較したか
社会保険料を計算に入れたか
給与所得控除の効果を確認したか
生活費として十分な手取りが確保できるか
配偶者を役員にする場合の検討をしたか
事業年度開始後3ヶ月以内に決定するか
株主総会(社員総会)議事録を作成するか
税理士にシミュレーションを依頼したか

役員報酬の最適化は、法人化による節税効果を最大限に引き出す鍵です。自己判断ではなく、必ず税理士と相談の上で決定してください。

法人税の仕組みについては「法人税の基本」、所得税については「所得税の基本」で詳しく解説しています。

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