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事業承継と相続税 ── 次世代への引き継ぎで知っておくべき税制
税制解説 約12分で読めます

事業承継と相続税 ── 次世代への引き継ぎで知っておくべき税制

事業承継は「税金の問題」でもある

事業承継は経営者にとって避けて通れないテーマ。しかし、多くの経営者が「まだ先の話」と後回しにしている。

事業承継で最も大きな問題の一つが税金。特に、自社株式の評価額が高い場合、後継者に多額の相続税・贈与税がかかる。

早めに対策を始めることで、合法的に税負担を軽減できる。


事業承継の3つの選択肢

方法内容メリットデメリット
親族内承継子供・親族に承継社内外の理解を得やすい後継者が経営に向いているとは限らない
従業員承継(MBO)役員・従業員に承継事業に精通した人に任せられる株式の買取資金が課題
M&A(第三者承継)外部の会社・個人に売却高額で売却できる可能性従業員・取引先への影響

いずれの方法でも、自社株式の移転に伴う税金の問題が発生する。


相続税の基本

基礎控除

基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

例: 配偶者+子供2人の場合

3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円

相続財産が4,800万円以下なら相続税はかからない。

相続税の税率

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
〜1,000万円10%0円
1,000万円〜3,000万円15%50万円
3,000万円〜5,000万円20%200万円
5,000万円〜1億円30%700万円
1億円〜2億円40%1,700万円
2億円〜3億円45%2,700万円
3億円〜6億円50%4,200万円
6億円〜55%7,200万円
⚠️

自社株式は「思った以上に高額」

業績の良い会社ほど自社株式の評価額は高い。年商数億円の中小企業でも、株式の評価額が数千万円〜数億円になることは珍しくない。この株式に相続税がかかると、後継者は多額の納税資金が必要になる。


自社株式の評価方法

非上場株式の評価方式

非上場会社の株式は、相続税法上の評価方法で算定する。

会社の規模評価方式
大会社類似業種比準方式
中会社類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
小会社純資産価額方式

※従業員数・売上高・総資産で「大・中・小」が判定される。

類似業種比準方式

上場している類似業種の株価を基に、以下の3要素で評価する。

株価 = A × [(B/b + C/c + D/d × 3) ÷ 5] × 斟酌率

A = 類似業種の株価
B = 配当金額、b = 類似業種の配当金額
C = 利益金額、c = 類似業種の利益金額
D = 純資産価額、d = 類似業種の純資産価額

利益が大きいほど株価が高くなる(利益の比重が3倍)。

純資産価額方式

会社の資産を時価で評価し、負債を差し引いた金額(=純資産)で株式を評価する。

株式の評価額 = (資産の時価 - 負債の時価 - 評価差額に対する法人税相当額) ÷ 発行済株式数
ℹ️

評価方法で株価は大きく変わる

同じ会社でも、類似業種比準方式と純資産価額方式では評価額が大きく異なることがある。どちらの方式が適用されるか、またどちらが有利かは専門家の判断が必要。


事業承継税制(特例措置)

概要

後継者が相続・贈与で取得した自社株式にかかる相続税・贈与税の100%が納税猶予される制度。

つまり、条件を満たせば自社株式にかかる相続税・贈与税が実質ゼロになる。

一般措置と特例措置の比較

項目一般措置特例措置
猶予割合相続80%、贈与100%相続・贈与とも100%
対象株式数発行済株式の2/3まで全株式
後継者の人数1人のみ最大3人
雇用維持要件5年間平均8割維持実質撤廃(認定経営革新等支援機関の意見で免除)
適用期限なし2027年3月31日まで(特例承継計画の提出期限:2026年3月31日)
⚠️

特例承継計画の提出期限に注意

事業承継税制の特例措置を利用するには、2026年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県庁に提出する必要があった。この期限が延長されているか、最新の情報を税理士に確認すること。計画の提出だけなら実際の承継前でもOK。


事業承継税制の適用要件

先代経営者(贈与者・被相続人)の要件

  • 会社の代表権を有していた(贈与時は代表権を退いていること)
  • 贈与時に同族で議決権の過半数を保有
  • 同族内で筆頭株主であった

後継者(受贈者・相続人)の要件

  • 贈与時に18歳以上
  • 贈与時に3年以上役員であった
  • 贈与後に代表者となる
  • 同族で議決権の過半数を保有し、筆頭株主となる

会社の要件

  • 中小企業(資本金等の基準あり)
  • 上場会社でない
  • 風俗営業会社でない
  • 資産管理会社でない(一定の例外あり)

自社株式の評価額を下げる方法

事業承継税制を使わない(使えない)場合でも、株式の評価額を下げる対策がある。

対策1: 役員退職金の支給

先代経営者に退職金を支給すると、会社の純資産が減少し、株式の評価額が下がる。退職金は損金算入できるため、利益も減少し、類似業種比準方式での評価額も下がる。

対策2: 不動産の購入

現金を不動産に変えると、相続税評価額は時価の60〜80%程度に下がる。会社の純資産価額が減少し、株式の評価額も下がる。

対策3: 生命保険の活用

法人で生命保険に加入し、保険料を支払うことで純資産が減少。また、死亡時の保険金で相続税の納税資金を確保できる。

対策4: 配当の引下げ

類似業種比準方式では配当金額が評価要素の一つ。配当を引き下げると株式の評価額が下がる。

対策5: 利益の圧縮

設備投資、退職金、経費の前倒し等で利益を一時的に下げると、類似業種比準方式での評価額が下がる。ただし、恒常的に利益を下げると事業に悪影響。

💡

複数の対策を組み合わせる

一つの対策だけでは効果が限定的。役員退職金+不動産購入+配当引下げなど、複数の対策を組み合わせることで大幅な評価引下げが可能。ただし、相続開始直前の極端な対策は否認リスクがあるため、5〜10年かけて計画的に行うこと。


事業承継の進め方

5〜10年前

後継者の選定・育成

親族内か従業員か、M&Aかを検討。後継者が決まったら経営の引き継ぎを開始

5年前〜

自社株式の評価と対策

株式の評価額を試算し、必要な対策(退職金、不動産購入等)を実施

3年前〜

事業承継税制の活用検討

特例承継計画の提出、認定経営革新等支援機関への相談

1〜2年前

株式の移転実行

贈与または相続で株式を後継者に移転。事業承継税制の適用申請

承継後5年間

事業継続要件の充足

代表者の地位維持、株式の保有継続、雇用の維持


贈与税の暦年贈与の活用

事業承継税制を使わずに、毎年少しずつ株式を贈与する方法もある。

暦年贈与の基礎控除

年間110万円までは贈与税がかからない。

ただし、自社株式の評価額が高いと110万円の枠では足りない。複数年にわたって計画的に贈与する必要がある。

相続時精算課税制度

60歳以上の親から18歳以上の子への贈与で、累計2,500万円まで贈与税が非課税(相続時に精算)。

2024年以降は、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設された。

制度非課税枠特徴
暦年贈与年110万円毎年使える。相続前7年以内は相続財産に加算
相続時精算課税累計2,500万円 + 年110万円大きな金額を一度に贈与可能。相続時に精算
ℹ️

2024年からの改正に注意

2024年1月以降の贈与から、暦年贈与の相続財産加算期間が「3年」から「7年」に段階的に延長される。早めの贈与がより重要になった。


M&A(第三者承継)の税金

株式譲渡の場合

後継者がおらず、第三者に株式を売却する場合。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
税金 = 譲渡所得 × 20.315%(所得税15%+住民税5%+復興税0.315%)

事業譲渡の場合

会社の資産・負債を個別に譲渡する方法。法人に対して法人税、個人に対して所得税がかかる。

M&Aの税金のポイント

項目株式譲渡事業譲渡
売り手の税金20.315%(分離課税)法人税(約30%)
買い手の税金なし(株式の取得)消費税(課税資産部分)
手続きシンプル個別の資産・負債を移転
従業員そのまま引継ぎ転籍が必要

個人事業主の事業承継

法人ではなく個人事業主の場合、個人版事業承継税制がある。

対象資産

  • 事業用の土地(面積400㎡まで)
  • 事業用の建物(床面積800㎡まで)
  • 減価償却資産(固定資産税の課税対象)

猶予割合

対象資産にかかる贈与税・相続税の100%が納税猶予

要件

  • 青色申告を行っている
  • 2024年3月31日までに個人事業承継計画を提出(期限延長の可能性あり)
  • 後継者が事業を継続

納税資金の確保

相続税の納税は現金一括納付が原則。株式は現金ではないため、納税資金の確保が課題になる。

納税資金の確保方法

方法内容
生命保険死亡保険金で納税資金を確保。法人契約なら保険料が経費
金庫株(自己株式の取得)会社が後継者から株式を買い取り、後継者に現金を渡す
延納相続税を分割で納付(最長20年、利子税がかかる)
物納現金がない場合、株式や不動産で納付(要件が厳しい)
事業承継税制納税猶予を受ける
💡

生命保険は早めに加入

相続税の納税資金確保に最も有効なのが生命保険。年齢が上がるほど保険料が高くなるため、事業承継を意識し始めたら早めに加入を検討すること。


事業承継の相談先

相談先内容
顧問税理士株式評価、相続税対策、事業承継税制の適用
認定経営革新等支援機関事業承継計画の策定、補助金の活用
事業承継・引継ぎ支援センター無料相談、M&Aのマッチング支援
M&A仲介会社第三者承継のマッチング・交渉
弁護士遺言書の作成、親族間の調整

よくある質問(FAQ)

Q1. 事業承継税制を使えば相続税はゼロになりますか?

自社株式にかかる相続税は実質ゼロになる。ただし、株式以外の相続財産(現金、不動産等)には通常通り相続税がかかる。

Q2. 事業承継税制の猶予は取り消されることがありますか?

ある。承継後5年以内に代表者を退任したり、株式を売却したりすると猶予が取り消され、猶予されていた税金+利子税を一括納付する必要がある。

Q3. 後継者がいない場合はどうすればいいですか?

**M&A(第三者承継)**が選択肢。事業承継・引継ぎ支援センター(各都道府県に設置)で無料相談ができる。

Q4. 自社株式の評価はいつ行うべきですか?

今すぐ。評価額を把握しないと対策が立てられない。毎年の決算時に株式の評価額を試算し、推移を把握しておくのが理想的。

Q5. 遺言書は必要ですか?

強く推奨。遺言書がないと相続人全員での遺産分割協議が必要になり、紛争リスクが高い。特に自社株式が相続財産に含まれる場合、経営権の分散を防ぐために遺言書は必須

Q6. 事業承継に使える補助金はありますか?

事業承継・引継ぎ補助金がある。事業承継後の新たな取り組み(設備投資、販路開拓等)に対して最大600万円〜800万円が補助される。

Q7. 何歳から事業承継を考え始めるべきですか?

50代からが理想。60代では遅いというケースも多い。事業承継税制の活用、株式の評価引下げ対策、後継者の育成には5〜10年かかる。早めに着手すること。


まとめ

事業承継と相続税のポイント:

  1. 自社株式の評価額を把握する – 思ったより高いことが多い
  2. 事業承継税制の活用を検討する – 100%納税猶予の特例がある
  3. 株式の評価額を下げる対策を計画的に実施する
  4. 納税資金を確保する – 生命保険が有効
  5. 遺言書を作成する – 経営権の分散を防ぐ
  6. 5〜10年前から準備を始める – 「まだ早い」は「もう遅い」
💡

事業承継は経営者の最後の大仕事

事業承継は、経営者としての最後の、そして最も重要な仕事。従業員、取引先、家族のために、計画的に準備を進めよう。まずは顧問税理士に「自社株式の評価をしてほしい」と相談することから始めてほしい。

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