年末調整と確定申告の違い ── 経営者はどちらも必要?
年末調整と確定申告は「別の手続き」
まず大前提。年末調整と確定申告は目的が同じでも、手続きが全く異なる。
| 項目 | 年末調整 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 誰がやるか | 会社(雇用主) | 本人(納税者) |
| 対象者 | 給与所得者(会社員、役員) | 自営業者、給与以外の所得がある人等 |
| 対象期間 | 1月〜12月の給与 | 1月〜12月のすべての所得 |
| 期限 | 翌年1月31日 | 翌年3月15日 |
| 提出先 | 税務署(会社が提出) | 税務署(本人が提出) |
| 精算される税金 | 所得税 | 所得税 |
年末調整とは
仕組み
会社は毎月の給与から所得税を源泉徴収(天引き)している。しかし、この金額は「概算」。
年末調整は、1年間の正確な税額を計算し、源泉徴収の過不足を精算する手続きだ。
年間の正確な所得税 - 毎月源泉徴収した合計 = 過不足額
→ 多く引きすぎていた場合: 還付(12月の給与で返す)
→ 少なかった場合: 追徴(12月の給与から引く)
年末調整で適用できる控除
| 控除 | 内容 | 最大控除額 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 全員に適用(所得2,500万円以下) | 48万円 |
| 配偶者控除 | 配偶者の所得が48万円以下 | 38万円(70歳以上は48万円) |
| 配偶者特別控除 | 配偶者の所得が48〜133万円 | 最大38万円 |
| 扶養控除 | 16歳以上の扶養親族 | 38〜63万円 |
| 生命保険料控除 | 生命保険・介護保険・個人年金 | 最大12万円 |
| 地震保険料控除 | 地震保険料 | 最大5万円 |
| 社会保険料控除 | 健康保険・年金等 | 全額 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | iDeCo・小規模企業共済 | 全額 |
| 住宅ローン控除 | 2年目以降 | 年末残高の0.7% |
年末調整で対応できない控除
以下の控除は、確定申告でしか適用できない:
- 医療費控除
- 寄附金控除(ふるさと納税含む) ※ワンストップ特例を除く
- 雑損控除
- 住宅ローン控除(初年度)
確定申告とは
仕組み
確定申告は、1年間のすべての所得を自分で申告し、税金を計算・納付する手続き。
確定申告が必要な人
| 該当条件 | 具体例 |
|---|---|
| 給与収入が2,000万円超 | 高額な役員報酬を受け取っている |
| 2か所以上から給与をもらっている | 複数の会社から報酬がある |
| 給与以外の所得が20万円超 | 不動産所得、副業、株式譲渡 |
| 個人事業主 | フリーランス、自営業 |
| 不動産を売却した | 譲渡所得がある |
| 医療費控除等を受けたい | 年末調整で対応できない控除 |
| 年末調整をしていない | 中途退職して再就職していない場合等 |
経営者は確定申告が必要なケースが多い
経営者は役員報酬以外の所得(不動産、株式、配当等)がある場合が多く、確定申告が必要になるケースが多い。年末調整だけで完結すると思い込まないこと。
経営者の立場は「二重」
経営者の特殊な立場を整理する。
法人の「雇用主」としての立場
- 従業員と自分(役員)の年末調整を行う義務がある
- 法定調書(源泉徴収票等)を税務署に提出する
- 翌年1月31日が期限
個人の「納税者」としての立場
- 自分の確定申告が必要な場合がある
- 役員報酬以外の所得がある場合は必須
- 翌年3月15日が期限
経営者の確定申告が必要なケース
ケース1: 役員報酬が2,000万円超
年間の給与収入が2,000万円を超えると、年末調整の対象外。自分で確定申告を行う必要がある。
ケース2: 複数の会社から報酬を受けている
複数の法人の役員を兼務している場合、主たる給与以外の所得が20万円を超えると確定申告が必要。
ケース3: 不動産所得がある
個人でマンション・アパートを所有し、賃貸収入がある場合。
ケース4: 株式・配当の所得がある
自社株の配当、投資による株式売却益がある場合(特定口座の源泉徴収ありを除く)。
ケース5: 医療費控除・ふるさと納税の控除を受けたい
年末調整では対応できないため、確定申告で申請する。
年末調整の実務スケジュール
年末調整の準備開始
従業員に「扶養控除等申告書」「保険料控除申告書」を配布
従業員から書類を回収
保険会社の控除証明書、住宅ローンの残高証明書等も回収
年末調整の計算
1年間の給与総額と源泉徴収税額を確定し、過不足を計算
精算・還付
12月の給与で過不足額を精算。多くの場合は還付(多く引きすぎた分を返す)
法定調書の提出
源泉徴収票、給与支払報告書を税務署・市区町村に提出
確定申告の実務スケジュール
書類の準備
源泉徴収票、支払調書、医療費領収書、ふるさと納税の証明書等を準備
確定申告の受付開始
e-Tax(電子申告)なら1月上旬から提出可能
確定申告の提出期限
所得税の確定申告書を提出。期限後申告は延滞税・加算税のリスク
所得税の納付期限
振替納税を選択すると4月中旬に口座引落し
住民税の通知
確定申告の内容に基づき、住民税の通知が届く
会社としての年末調整の義務
法人の経営者として、以下の義務がある。
1. 源泉徴収義務
従業員・役員の給与から毎月所得税を天引きし、翌月10日までに税務署に納付する。
| 届出 | 内容 |
|---|---|
| 源泉所得税の納付 | 毎月10日(特例: 半年に1回) |
| 納期の特例 | 従業員10人未満の場合、7月10日と1月20日の年2回 |
2. 法定調書の提出
| 書類 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 給与所得の源泉徴収票 | 税務署 | 1月31日 |
| 給与支払報告書 | 市区町村 | 1月31日 |
| 法定調書合計表 | 税務署 | 1月31日 |
一人社長でも必要
従業員がいなくても、自分(役員)の役員報酬について年末調整と法定調書の提出が必要。一人社長だから不要、ということはない。
経営者が確定申告で節税できるポイント
1. 医療費控除
年間の医療費が10万円(所得200万円未満は所得の5%)を超えた部分が控除対象。
| 対象 | 具体例 |
|---|---|
| 対象になる | 病院の診療費、処方薬代、入院費、歯科治療費 |
| 対象にならない | 美容整形、予防接種(一部例外あり)、サプリメント |
| 上限 | 200万円 |
2. ふるさと納税(寄附金控除)
自己負担2,000円で、住民税・所得税が控除される。
控除上限の目安(独身・扶養なしの場合):
| 年収 | 控除上限目安 |
|---|---|
| 500万円 | 約6.1万円 |
| 700万円 | 約10.8万円 |
| 1,000万円 | 約17.6万円 |
| 1,500万円 | 約38.9万円 |
| 2,000万円 | 約56.5万円 |
ふるさと納税は経営者にこそ有効
所得が高いほど控除上限が大きくなる。年収2,000万円の経営者なら、約56万円分の返礼品を実質2,000円で受け取れる計算。
3. 不動産所得の損益通算
個人所有の不動産で赤字が出た場合、給与所得(役員報酬)と損益通算できる。
4. 株式の損失繰越
上場株式の売却損は、翌年以降3年間繰り越して翌年の利益と相殺できる(確定申告が必要)。
e-Taxの活用
e-Taxのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 自宅で完結 | 税務署に行く必要なし |
| 還付が早い | 3週間程度(書面は1〜2ヶ月) |
| 24時間受付 | 深夜でも提出可能 |
| 添付書類省略 | 源泉徴収票等の添付が不要(保管は必要) |
| 青色申告特別控除 | e-Taxなら65万円控除(書面は55万円) |
e-Taxの利用方法
- マイナンバーカード方式 – マイナンバーカード + ICカードリーダー(またはスマホ)
- ID・パスワード方式 – 税務署で発行されたID・パスワードを使用
確定申告を忘れた場合のペナルティ
| ペナルティ | 税率 | 内容 |
|---|---|---|
| 無申告加算税 | 15〜20% | 期限内に申告しなかった場合 |
| 延滞税 | 年2.4%〜8.7%(2026年) | 納付が遅れた日数に応じて |
| 重加算税 | 35〜40% | 意図的に申告しなかった場合 |
期限後でも早めに申告を
期限を過ぎても自主的に申告すれば、無申告加算税は5%に軽減される。「忘れていた」と気づいたら、すぐに申告すること。
年末調整と確定申告の使い分けチェックリスト
年末調整だけでOKのケース
- 役員報酬が2,000万円以下
- 報酬を受けている法人は1社のみ
- 給与以外の所得が20万円以下
- 医療費控除・ふるさと納税の控除が不要
- 住宅ローン控除は2年目以降
→ すべてに該当する場合のみ、年末調整だけで完結
確定申告が必要なケース
- 上記のいずれか1つでも該当しない
- 経営者は確定申告が必要なケースがほとんど
よくある質問(FAQ)
Q1. 年末調整と確定申告、両方やる必要がありますか?
両方やるケースが多い。法人として従業員(自分を含む)の年末調整を行い、個人として確定申告を行う。年末調整は会社の義務、確定申告は個人の義務。
Q2. 確定申告の期限に間に合わない場合は?
期限後でも申告は可能。ただし無申告加算税と延滞税がかかる。税理士に依頼すれば、期限内の申告がほぼ確実。
Q3. 確定申告は税理士に任せるべきですか?
経営者は税理士に任せるのが無難。不動産所得や株式の所得がある場合、計算が複雑。申告ミスのリスクを考えると、税理士報酬(5〜15万円程度)は十分に見合う。
Q4. 住民税は別途申告が必要ですか?
確定申告をすれば住民税の申告は不要。確定申告の情報が市区町村に自動で共有される。
Q5. 役員報酬以外の所得が20万円以下なら確定申告は不要?
所得税の確定申告は不要だが、住民税の申告は必要。住民税には「20万円以下なら申告不要」のルールがない。
Q6. ふるさと納税のワンストップ特例を使えば確定申告は不要?
ワンストップ特例は「確定申告をしない人」のための制度。確定申告をする場合はワンストップ特例が無効になるため、確定申告でふるさと納税分も申告する必要がある。
Q7. 法人の決算と個人の確定申告は別のものですか?
全く別物。法人の決算は法人税の申告(事業年度終了後2ヶ月以内)、個人の確定申告は所得税の申告(3月15日まで)。経営者は両方の手続きが必要。
まとめ
年末調整と確定申告の違いを整理すると:
| 年末調整 | 確定申告 | |
|---|---|---|
| 主体 | 会社 | 個人 |
| 対象 | 給与所得のみ | すべての所得 |
| 経営者の関わり | 法人として実施する義務 | 個人として申告する義務(該当者) |
経営者がやるべきことは:
- 法人として従業員・自分の年末調整を確実に行う
- 個人として確定申告が必要かどうかを確認する
- 不明点は税理士に相談して、申告漏れ・控除漏れを防ぐ
申告漏れは高くつく
確定申告を忘れると、無申告加算税(15〜20%)と延滞税が課される。一方、控除の申告漏れは単純に「損」。どちらも避けるために、税理士と一緒に年間の税務スケジュールを組むことをおすすめする。